虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)
内科的治療
疾患概要
心疾患診療において多くを占める虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄・閉塞に起因する狭心症や心筋梗塞症が代表的な疾患ですが、近年では病態と診療指針の違いから、1.ST上昇型急性心筋梗塞症,2.非ST上昇型急性冠症候群,3.安定冠動脈疾患(安定型狭心症,無症候性冠疾患など),4.冠攣縮性狭心症と分類されることが一般的で、各病態別の循環器病ガイドライン(http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm)も公表されています。
診療の基本指針としては以下のように要約できます。
- ST上昇型急性心筋梗塞症:迅速な診断とカテーテル治療を中心とする早期再灌流治療。病院収容から90分以内に梗塞責任冠病変の血流再開が治療目標
- 非ST上昇型急性冠症候群:早期のリスク評価。高リスク所見を有する例には早期侵襲的アプローチ(急性期にカテーテル検査と冠血行再建術を考慮)
- 安定冠動脈疾患:非侵襲的評価を先行し、適応例にはカテーテル検査と心筋虚血診断にもとづく冠血行再建術を考慮
- 冠攣縮性狭心症:適切な臨床診断、生活指導と薬物治療
当センターにおける虚血性心疾患診療の特徴
<診療体制>
急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群には、365日24時間体制で迅速な対応、カテーテル検査・治療が行える体制を整えています。
(A)Room 1
(B)Room 2
図1 血管撮影室
別館2階に2室を有し、救急外来(ER)の直上、集中治療室(ICU/CCU)の隣に位置しています。(A)Room 1はハイブリッドルーム仕様で、補助循環装置の併用や緊急外科的処置にも対応しやすい構造になっています。(B)Room 2は2組フラットパネル搭載(バイプレーン)X線装置を装備し、複雑冠動脈病変のカテーテル治療に適します。2室ともマルチモダリティイメージング対応の多面フリーレイアウトモニターを使用しています。
<評価と診療方針1 診断法>
病状の安定した狭心症、慢性冠動脈疾患、またはその疑いがもたれる患者様の診断には、負荷心電図検査,心臓超音波検査,冠動脈CT(図2)などの非侵襲的な評価を先行し、適応例には心臓カテーテル検査による精査を行い適切な治療法を選択します。
心臓カテーテル検査は,1泊または2泊の入院で行います。冠動脈の中等度狭窄病変には,カテーテル検査時に圧センサー付ガイドワイアーを用いて冠血流予備量比(Fractional flow reserve, FFR)または瞬時血流予備量比(instantaneous wave free ratio, iFR)による心筋虚血評価を行い,冠血行再建の適応決定の参考とします。いずれの治療法においても適切な内科的・薬物治療(Optimal medical therapy, OMT)が基本となります。
図2 冠動脈CT
外来で施行可能で,冠動脈疾患の検出もしくは除外診断に大きな役割を果たす画像検査です。
図3 冠動脈造影検査と圧センサーガイドワイアーによる虚血評価
中等度冠狭窄病変に対しては,冠内圧測定によりFFR(冠血流予備量比)やiFR(瞬時血流予備量比)などの指標を算出し,生理学的重症度を評価し,治療適応判断の一助とします。
<評価と診療方針2―PCI>
冠動脈カテーテル治療(Percutaneous catheter intervention, PCI)は、多くの例において橈骨動脈穿刺で行い,病変部をバルーンカテーテルで拡張後に薬剤溶出性ステント(Drug eluting stent, DES)を留置する病変拡張法が中心となります。多量の血栓が閉塞機転となっている急性冠症候群症例では,血栓吸引カテーテルによる吸引除去を先行させることがあります。石灰化が強く拡張困難な病変には回転式アテレクトミー(ロタブレーター)で硬い部位を削る前処置を加えます。
なお,当科スタッフは日本心血管インターベンション治療学会・心血管カテーテル治療専門医3名,同認定医4名が常勤していますので,緊急・待機的いずれのカテーテル検査・治療に際しても必ず専門医または認定医が主術者もしくは副術者を担当します。
図4 冠動脈カテーテル治療(PCI)
多くの症例では,薬剤溶出性ステント(DES)を用いた病変拡張を行います。
<評価と診療方針3―血管内イメージング法>
PCIの戦略やステントサイズの決定には,血管造影に加えて、血管内超音波(Intravascular ultrasound, IVUS,図5)や光干渉断層法(Optical coherence tomography, OCT,図6)などの血管内イメージング法を重要なガイドとして活用しています。当院ではPCIの95%以上で血管内イメージング法を併用しています。
図5 血管内超音波(IVUS)
病変(プラーク)の分布や正確な血管径の把握が可能であり,PCIに際しての多くの情報を与えてくれるイメージングモダリティです。
図6 光干渉断層法(OCT)
IVUSの約10倍の空間解像度をもつ高精度血管内イメージングで,病変性状のより正確な把握が可能です。
<評価と診療方針4―心臓血管外科との連携>
冠動脈バイパス術などの外科的治療が必要な患者様には、速やかに心臓血管外科チームと連携をとり,診療を中断させることなく引継ぎます。心臓血管センターとして毎週多職種合同カンファレンスを行い,また循環器内科と心臓血管外科が病棟,血管撮影室(含ハイブリッドカテーテル室),医局を共有し,相互の垣根が低いことも,患者様により適切な診療を提供しやすい当センターの特筆すべき特徴と自負しております。
診療実績
<虚血性心疾患関連検査・治療数>
詳しくはこちらをご覧ください
<虚血性心疾患関連の施設認定>
- 日本循環器科学会認定循環器専門医研修施設
- 日本心血管インターベンション治療学会研修施設
- 高速回転式経皮経管アテレクトミー(ロタブレーター)認定施設
- 東京都CCUネットワーク加盟施設
- 三学会構成心臓血管外科専門医認定基幹施設
- 日本心血管インターベンション治療学会IVLシステム認定施設
学術活動(虚血性心疾患関連)
<学術論文>
- Watarai M, Otsuka M, Yazaki K, et al.: Applicability of quantitative flow ratio for rapid evaluation of intermediate coronary stenosis: comparison with instantaneous wave-free ratio in clinical practice. Int J Cardiovasc Imaging. 2019 Jun 26. doi: 10.1007/s10554-019-01656-z. [Epub ahead of print]
- Kahata M, Otsuka M, Watarai M, et al.: Coronary aneurysm formation after paclitaxel‑coated balloon angioplasty for in‑stent restenosis of first‑generation sirolimus‑eluting stent implanted 9 years ago. Cardiovasc Interv Ther. 2019 Jan 12. doi: 10.1007/s12928-019-00570-4. [Epub ahead of print]
- Yazaki K, Otsuka M, Kataoka S, et al.: Applicability of 3-dimensional quantitative coronary angiography-derived computed fractional flow reserve for intermediate coronary stenosis. Circ J 81: 988-992, 2017
- 大塚雅人:冠動脈造影の現状と展開 ―マルチモダリティーイメージング時代における役割―.循環器内科 81: 546-554, 2017
- Yazaki K, Otsuka M, Kataoka S, et al.: A coronary malformation: Intercoronary communication between left circumflex artery and right coronary artery successfully diagnosed with intravascular ultrasound. ESC Clinical Case Gallery (12 Feb), 2017
- Kahata M, Otsuka M, Kataoka S, et al.: Successful angioplasty with intravascular ultrasound and optical frequency domain imaging guidance for tandem intramural hematoma caused by coronary artery spasm. J Cardiol Cases 16: 199-201, 2017
<学会発表・講演>
- Kahata M: Double lumen coronary artery with flap-like structure: unique OCT image after anticoagulant therapy for the occlusive thrombosis. Euro PCR 2019(2019年5月,Paris)
- 加畑 充:急性冠症候群の再疎通血栓が二腔構造を形成するまでの過程をIVUSとOCTで経時的に観察した一例.第39回血管内イメージング研究会(2019年5月,東京)
- 加畑 充,他:再疎通した冠動脈内血栓症に関する新たな発見.河田町循環器フォーラム〜第11回心臓病研究会〜(2019年5月,東京)
- Watarai M, et al.: Clinical Applicability of Quantitative Flow Ratio for Instant Evaluation of Myocardial Ischemia: Comparison with iFR, Including On-site Analysis. 第83回日本循環器学会学術集会(2019年3月,横浜)
- 小山貴史,他:Quantitative Flow Ratioによる冠動脈病変解析の使用経験.FRIENDS Live 2019(2019年3月,東京)
- 大塚雅人,他:シンポジウム「Angiography-based FFR(Quantitative Flow Ratio)の心筋虚血判定精度と臨床応用の可能性」.第32回日本冠疾患学会学術集会(2018年11月,熊本)
- 大塚雅人:講演「IVUS/OCTの読影法」.東京ライブデモンストレーション2018(2018年10月,東京)
- 小山貴史,他:PCI時のステント選択に関わるOCT計測の適性について、臨床工学技士の臨床経験の影響を評価する.第27回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(2018年8月,神戸)
- 渡会昌広,他:心筋虚血予測を目的とした、QFRおよびiFRの関係性.第27回日本心血管インターベンション治療学会学術集会(2018年8月,神戸)
- 大塚雅人:講演「PCIにおけるImagingの役割」.Ultimaster Expert Course(2018年6月,東京)
- 矢崎恭一郎,他:Quantitative Flow Ratioオンサイト解析とiFRの比較検討.第52回日本心血管インターベンション治療学会関東甲信越地方会(2018年5月,東京)
- 大塚雅人,他:冠動脈タンデム病変におけるQuantitative Flow Ratio解析による個別病変評価の試み.第30回日本冠疾患学会学術集会(2017年12月,大阪)
- 渡会昌広,他:冠攣縮性狭心症により心室細動を繰り返す若年女性の1例.第246回日本循環器学会関東甲信越地方会(2017年12月,東京)
- 大塚雅人:講演「冠動脈カテーテル治療後の抗血栓療法」.練馬区医師会学術部循環器懇話会(2017年11月,東京)
- 大塚雅人:講演「Quantitative Flow Reserve -新たな冠病変の重症度指標となり得るか-」.Cardiac Seminar in West Tokyo 2017(2017年11月,東京)
- 大塚雅人:講演「QFR(Quantitative Flow Ratio)って使えますか?」. 第5回Clinical Live Intervention Conference in Kyoto(2017年8月,京都)
- 大塚雅人,他:パネルディスカッション「Quantitative Flow Ratio:3次元冠動脈造影にもとづくvirtual FFR -Physiology-guided PCIに応用可能か?-」.第26回日本心血管インターベンション治療学会(2017年7月,京都)
- 矢崎恭一郎,他:3次元冠動脈造影を用いたQFRとFFR併用の虚血診断における臨床的有用性.第26回日本心血管インターベンション治療学会(2017年7月,京都)
- 矢崎恭一郎,他:虚血診断において,3次元冠動脈造影に基づくQFRに対し冠動脈及びその病変特性が及ぼす影響.第26回日本心血管インターベンション治療学会(2017年7月,京都)
- 加畑 充:非ステント部のOCTで観察された低輝度,不均一新生内膜様プラーク.第35回血管内イメージング研究会(2017年5月,東京)
- Yazaki K, et al.: Quantitative Flow Ratio: Novel Modality for Estimating Ischemia in Patients with Intermediate Coronary Artery Disease. 第81回日本循環器学会学術集会(2017年3月,金沢)
- 大塚雅人:講演「冠動脈イメージング Up to Date」.第26回荻窪循環器カンファレンス(2017年3月,東京)
- 片岡翔平,他:3次元定量的冠動脈造影から算出される理論的FFR(Quantitative flow ratio)の診断精度 に関する検討.第243回日本循環器学会関東甲信越地方会(2017年2月,東京)
- 矢崎恭一郎,他:良好な転機をたどった冠動脈自然発症解離の2症例.第243回日本循環器学会関東甲信越地方会(2017年2月,東京)
<進行中の学術研究>
- 日本心血管インターベンション治療学会症例登録レジストリー(J-PCI)
- 安定型冠動脈疾患を合併する非弁膜症性心房細動患者におけるリバーロキサバン単剤療法に関する臨床研究(AFIRE Study)
- 経皮的冠動脈インターベンション施行患者を対象とした抗血小板療法による血栓性イベント、出血性イベント、血小板凝集抑制作用の実態調査(PENDULUM)
- 日本における急性心筋梗塞患者の治療および予後の実態調査(JAMIR前向き研究)
- 虚血性心疾患患者におけるカテーテル治療後の多施設での臨床転帰及びリスク因子の調査(TWINCRE研究)
- 出血リスクの高い経皮的冠動脈インターベンション施行患者を対象としたプラスグレル治療の研究(PENDULUM mono)
- 東京都における心疾患(循環器)緊急症の1年予後の検証
- 3次元定量的冠動脈造影解析に基づくQuantitative Flow Ratioの診断制度と臨床的有用性に関する研究:Part2
- 日本心血管インターベンション治療学会内登録データを用いた統合的解析