末梢動脈疾患
末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease = PAD)
PADとASO
従来、動脈硬化により血管内腔が狭窄し、組織の血流不足によりさまざまな症状をもたらす疾患で、特に下肢の動脈に生じるものは、閉塞性動脈硬化症(Arteriosclerosis Obliterans = ASO)と呼ばれていました。“末梢動脈”とは、冠動脈を除く、大動脈とその分枝すべての動脈を示し、“末梢動脈疾患(Peripheral Arterial Disease=PAD)”の意味するものは、広義にはバージャー病や血管炎など動脈硬化以外のものや、鎖骨下動脈狭窄や腎動脈狭窄なども含むと考えられますが、実際の臨床では下肢の動脈硬化によるものが圧倒的に多いことから、近年ではPADはASOとほぼ同義に用いられています。
重症度分類
症状の程度により下記のように分類されます。Fontaine分類がよく知られていますが、現在の臨床では、より細かいRutherford分類も用いられます。Fontaine Ⅲ~Ⅳ度およびRutherford 4-6群(下表網掛け)は、下肢切断の危機に瀕した重症型として”重症虚血肢; Critical limb ischemia=CLI”とよばれます。
度 | 臨床所見 | 度 | 群 | 臨床所見 | |
Ⅰ | 無症候 | 0 | 0 | 無症候 | |
Ⅱa | 軽度の間欠性跛行 | Ⅰ | 1 | 軽度の間欠性跛行 | |
Ⅱb | 中等度から高度の間欠性跛行 | Ⅰ | 2 | 中等度の間欠性跛行 | |
Ⅰ | 3 | 重度の間欠性跛行 | |||
Ⅲ | 安静時疼痛 | Ⅱ | 4 | 安静時疼痛 | |
Ⅳ | 潰瘍や壊疽 | Ⅲ | 5 | 小さな組織欠損 | |
Ⅲ | 6 | 大きな組織欠損 |
治療について
治療には保存的治療と血行再建術があります。血行再建術には、血管内治療(Endovascular therapy= EVT)と、外科的治療があります。
1.保存的治療
間欠性跛行を訴える患者様には、まず薬物療法と運動療法を行います。歩行距離延長効果があるcilostazolがよく用いられますが、それ以外の抗血小板薬や血管拡張薬も使用されます。運動療法は、虚血症状が出現しても我慢して、さらにもう少し歩くことがポイントです。
2.血行再建術
間欠性跛行の症例では、保存的治療では満足に症状が改善されない場合に選択されますが、重症虚血肢の症例では絶対適応であり、救肢のために可及的早期に実施すべきです。
・血管内治療(カテーテル治療、Endovascular therapy=EVT)
カテーテルを用いて、狭窄血管を血管内より拡張します。病変部位により長期開存性が異なります。腸骨動脈領域ではステント治療が第一選択となります。浅大腿動脈領域ではステント、通常のバルーン、薬剤コーテッドバルーンなどが使用可能ですが、いずれも時に再狭窄が見られます。近年、ステントグラフト(Viabahn®)が使用可能となり、従来再狭窄率が高かった浅大腿動脈のびまん性病変に対する長期開存効果が期待されています。
下腿動脈は、バルーンのみ使用可能ですが、再狭窄率が非常に高く、重症虚血肢の患者様が主な対象になります。
一般的には心臓から近いほど長期開存性が高いといえます(腸骨動脈>大腿動脈>膝下動脈)。
・外科的治療
外科治療には、血栓内膜摘除術・バイパス手術があります。血管内治療に比べてやや侵襲が大きく、血管内治療が困難である場合や、血管内治療では長期開存が望めない場合に選択されます。たとえば、浅大腿動脈の長区域閉塞などでは血管内治療より長期の開存が期待できます。
当院の治療の特徴
当院では、カテーテル治療・バイパス治療のいずれも可能です。複数の病変がある場合、それぞれについて最適と思われる治療を選択します。カテーテル治療とバイパス治療を組み合わせた、“ハイブリッド治療”も積極的に行っています。
また、下肢に潰瘍や壊死を生じた重症虚血肢の症例については、血行再建を行ったのちにデブリードマンや切断術を行うことにより、治癒率の向上・切断範囲の縮小が望めます。治療戦略は、循環器内科・整形外科・糖尿病内科などにより構成されたフットケアチームにより検討しています。
当院の治療実績(2022年度)
末梢動脈疾患に対するカテーテル治療 (EVT) 49例